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オオカミ研究が示唆する会社員のストレス

 

 

 

少し前のオオカミ研究

犬は群れの中で、自分がリーダーになることを望んでいる。犬がリーダーになると飼い主の命令を効かなくなるので、ご飯は人間より後に与え、飼い主に足を乗せてきた場合は叱り、散歩も人間の横を常に歩かせなければならない。

このような犬と人間の順位を明確にするしつけを紹介している本は書店で普通に購入することができる。

ネットでも同様の記事はよく見るし、(私は会ったのことがないが)このような訓練を行うトレーナーもいると聞く。

このしつけの根拠になっているのが、犬の祖先にあたるオオカミの研究だ。

あるグループが、オオカミの群れの調査を行なったところ、オオカミの群れには「アルファ」と呼ばれるリーダーがおり、その「アルファ」が食事や繁殖などの権利を優先される。「アルファ」は力の強い個体が選ばれ、順位が下の仲間を力で従える。また順位が下の仲間は自分が「アルファ」になることを虎視眈々と狙っている。このような傾向が調査対象の群れでは見られたという。

祖先のオオカミの特性は犬にも引き継がれているはず、というのが順位付けを基本としたトレーニングの根拠となっている。

 

研究は前提条件が大事

さて話は変わるが、ある研究を紹介する。

世界的に有名な医学誌BMJ(英国医師会雑誌)に「パラシュートなしで飛行機から飛び降りてもケガしない」という研究結果が掲載されました。

これ意味わからないですよね?(急に口語)

スカイダイビングの時にパラシュートをつけずに飛び降りたら死ぬに決まっているだろって思いませんか?

でもこの研究では実際にパラシュートをつけた人とつけない人で実験したところ、両グループで怪我をする確率は変わらないというのです。

実際に実験をしたってどういうこと?

パラシュートなしの人はどうなったの?

とツッコミどころ満載すぎますね。

種明かしをすると、この実験は飛行機が地上に停止している状態で行われていました。

停止した(小型の)飛行機から数十センチの高さをジャンプして降りた時怪我をするかどうかに、パラシュートはほとんど寄与しないので、先の結果が得られたというわけです。

これは、調査をしたグループが研究は前提条件を誤ると一見するととんでもない結果を導いてしまうことの教訓を広めるために行なった実験だったのです。

 

間違った前提のオオカミ研究

さて話を戻して冒頭のオオカミ研究。

この研究、人間がランダムに捕まえたオオカミを動物園のような閉鎖された空間で飼育している群れを観察して得られた結論だった。

実はこの群れというのは色々な意味で野生の群れとは異なる。

まず野生のオオカミの群れは基本的に血の繋がった家族である。基本的に両親とその子供達、つまり親族で群れを形成する。

その群れの中では、確かに両親が「アルファ」として群れを率いていますが、彼らは力で子供達を支配しているわけではありません。

協力して狩を行なったり、小さい兄弟のために餌を取ってきたりするなど、協力して行動することが確認されている。

群れの中で、争いが起こったり、「アルファ」がやりたい放題をしているわけでは決してない。

(詳細はジョン・ブラッドショー著「犬はあなたをこう見ている」を参考)

一方で、閉鎖空間で観察対象となった群れは、人間が用意した個体で、血縁関係もなければ、年も性格も何も考慮されていない群れだ。

しかも、餌は人間が与えるし、グループを抜けることもできない。

この二つのグループが同じような行動をとると思えるだろうか?

人間だって家にいる時はだらしなくても、会社ではきっちりしているという人がたくさんいる。

どちらか一方の観察で、人間性を見極めることができるだろうか?

オオカミは当初の研究では、不自然(人為的)に作られた環境下での行動で性格や性質を判断されてしまい、それが本来(野生)のオオカミと全く行動が違うことが判明している。

この前提を誤った研究結果を犬に適用してしまったことが、順位づけによるしつけの根拠となっている。

これらの研究の間違いは10年くらい前にはすでに日本語の書籍などでも紹介されており、日々の犬研究をしっかりとおっていれば、自然と自分のトレーニング方法を見つめ直すきっかけになっただろう。

実際、まだ数は多くありませんが、ハズバンダリーなど順位づけに頼らない、しつけ方法を採用しているトレーナーの方も増えてきている印象だ。

もし、犬の順位づけによるトレーニング方法を推奨してくるトレーナーやペット関係者がいたら注意が必要だ。

念のために言っておくと、彼らを直ちに避ける必要はない。順位づけによるトレーニングは根拠は間違っていても、結果的に良い結果をもたらすこともある(だからこそ一時期トレーニングの主流になった)。

ただ、常に自己研鑽に勤めている人でないことは確かだ。

 

会社員のストレスは不自由な人間関係

さて、この間違ったオオカミ研究は人間の社会に対して面白い示唆を与えてくれる。

最近、会社員の自殺が問題になっている。

テレビや新聞などを見るとこれらの原因は長時間労働であると言われているようだ。

しかし、これは本当だろうか?

ベンチャー企業などでは、自殺した人よりも、ずっと多くの時間を働いている社長や社員がたくさんいるが、それで死を選ぶという事例を聞いたことがない。

個々の事例で長時間労働と自殺の因果関係が認められることはあるが、労働時間と自殺率に因果関係があるという調査結果は聞いたことがない。

私は長時間労働と自殺は直接的に関係なく、実際は人間関係を起因としたストレスに長時間晒されていることが原因でないかと思っている。

野生のオオカミのように、気心知れた仲間同士で群れを作っている場合、彼らはとても穏やかで群れの仲間に対して攻撃をすることは滅多にない。

しかし、無理やり無関係のオオカミ達と閉鎖された環境に閉じ込められると、仲間同士で争いが耐えなくなる。

知能の低い動物には攻撃性を自分に向けることを思いつきませんが、人間ならば別です。

嫌な上司、後輩、同僚などに囲まれ、そこから抜け出せない、逃げ出せない状況というのはとてもストレスになります。

日本ではまだ「会社は最低三年勤めろ」「転職は逃げることだ」「せっかく大企業に就職したのに」などなど、会社を辞めることに対してネガティブなイメージがあります。頑張ることが良いという風潮もあり、自分で自分を騙して働き続けているように見える人も多くいます。

彼らは、閉鎖されたオオカミのように、高いストレスに晒され最終的には自分を攻撃してしまうのではないだろうか。

 

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